初老の運転手さんに昔、残波岬でさんざん潮干狩りをした話をすると、運転手さんは灯台から最初の道でハンドルを左にきってタクシーをしばらく進めると、道路わきに停車させた。
「貝掘りやったんなら、たぶんこの辺だよ。」
運転手さんは潮干狩りと言わずに「貝掘り」と言った。確かに潮干狩りの日には大量のサザエなどを持ち帰ったものだ。ごつごつした岩場は潮だまりから道路のすぐ下まで来ていて、記憶にある通りだ。
しかし・・・・。
「・・・・・」
運転手さんは独り言のように続けた。
「でも、今はもうダメだね。この辺の海は死んでる。」
「捕れないの?」
「ぜんぜんダメ。もうこの辺には何もいない。」
「今でも捕れるところはあるの?」
「もっと北の方に行けば、捕れるかもしれないけど、このあたりでは無理だね・・・」
沖縄本島の北端に追いつめられたヤンバルクイナのように、あの沢山いた青い宝石のようなスズメダイや、岩ガニそして、サザエはもう残波岬海岸からは消えてしまったようだ。
また一つ、いつのまにか僕は貴重な幼児体験の場所を失ったことを知った。


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