2010/06/20

身振りでレア・ステーキを注文して失敗する

あるときマドリッドのレストランに入り、食事をすることになった。

案内されて椅子に座ったところで、ふと、ここで英語を使ってしまうのは野暮のように思われた。

昔、妹がフランス南部の人と結婚した日本人の友人が、義理の弟との会話で英語で使うと『なに、気取ってんだよ』っていう雰囲気になる、と言っていたのを思い出したのだ。

きっと英語は仕事のときにやむを得ず使う、というものなのだろう。

とりあえず無言でメニューを受け取り、なんとなくステーキを頼むことに決定。

スペイン語はよく分からないので、ウェイターのスペイン人のお兄さんにはメニューを指差して注文したが、ふと頭の中に架空のスペイン男が出てきて勝手につぶやいた。

『まったくステーキを注文しておいて、焼き加減を指定しないなんて信じられないね』

そうなのだ。やはり食事はエンジョイしなくては・・・。

英語を使わずに身振りのみでミディアム・レアを指定できるだろうか?

(・・・・・)

僕は2秒考えて、『ミディアム・レア』を諦め、『レア』に挑戦することにした。

「あー・・・」

まず、意味不明な音を発してウェイターのにいちゃんの注意をひいて、アイコンタクト。

まず、右手で肉を挟んで、鉄板の上に置くフリをして

「ジュー・・・・ジュー・・・・・」

と2、3秒、肉を焼く擬音を口から発した。

若いウェイター氏は明らかに、僕が肉を焼くそぶりをしているのを理解しているようだ。

そして、今度は、その右手で肉をひっくり返すフリをしてまた、2、3秒肉を焼く音。

「ジュー・・・・ジュー・・・・・」

動作を切って、人差し指を左右に振りながら、

「ノン!!」

と重要な一言。

「オーケー・・・」

もちろん、これだけではウェイター氏には何が良いのかわからないはずだ。

僕は今度はすばやく一瞬、肉を焼く音をさせ、間髪いれずにひっくり返してまた短く焼く音。

「ジュ!! ジュ!!」

という感じにやった。さっきのよりも極端に焼く時間を短く!!

そして、身振りの終了とともに右手でオーケーサイン。

するとウェイター氏、今度はうなずきながら、確認するように同じことを僕に向けてやって見せた。

「ジュー・・・・ジュー・・・・・

 (ゆっくり、ひっくり返す)

 ジュー・・・・ジュー・・・・・

 ノン。」


 (僕はここでうなづいてみせる)

「ジュ、 (すばやくひっくり返す) ジュ!!」

どうやら完璧だ。僕はウェイター氏への念押しの一言を。

「ぐらしあす!!」

これで英語を使わずにレア・ステーキの注文を完了。うまくいっただろうか?

いろいろ想像しながら待っていると、やがて注文したステーキがやってきた。

焼き加減はどうだろうか?

ナイフとフォークで、約1センチの厚いステーキを切り、断面を開いて愕然とした。

断面はほとんど100%ピンク色!!

表裏のわずか紙一枚の薄さ分も火が通っていない!!


超ウルトラ・レアとでもいうべき、ほとんど牛肉のたたきのような状態だ。

きっとあのウェイター氏は、厨房に対して

「レア」

と伝えたのではなく、

「ジュ!! ジュ!!」

という身振りのみを伝えたのだ。

その結果、厨房のシェフはこれを無類の生肉好きの客が来たと解釈して、本当に

「ジュ!! ジュ!!」

という身振りの時間だけ、焼きを入れたに違いない。

こうしてその晩、僕は少しブラック・ペッパーの効いた、噛みごたえ満点のウルトラ・レア・ステーキを長時間にわたって十二分に堪能したのだった。

やっぱり食事はゆっくり楽しまないとね。



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2 件のコメント:

yuko さんのコメント...

すごいおもしろい!

私もいつかそうやってステーキを注文してみたいです。
私の場合、英語も片言なので^^;ジェスチャーでいけるかな。。。

どこからかあなたのブログにたどり着きました。
またきます。

たまーむ さんのコメント...

Yukoさん。こんにちは。コメントありがとうございます。サイトも拝見しました。写真の上手な方がうらやましいです。また、おいでくださいませ。

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