なんといってもグッピーは熱帯魚専門店に並んでいる観賞魚だし、今まで一度もまともに納得して聞いてもらったことがなく悔しい思いをしてきた。
そんなことを30年も続けるともう自分の記憶に自信が持てなくなってくる。
確かに当時も、ドブにサカナがいる場所は限定されており、どこでもいるという訳ではなかった。
ドブのサカナを追っていくと氷屋の工場があり、その工場からはきれない水が滝のようにゴーゴーと音を立ててドブに流れ込んでいた。
この世にも珍しい水源によって、周囲数ブロックのドブには常にきれいな水が流れておりフナやグッピーなどの淡水魚が棲みついていたのだ。
だから、30年ぶりに那覇に来たからにはなんとしても現場を確認したかったが、どうみてもドブには水はなかった。
(場所が違うのだろうか?)
記憶を頼りに道を行ったり来たりして約30分、ふと見覚えのある氷屋の看板を発見した。
(氷屋は残っていたのだ!!)
何となく氷屋の入口で看板を眺めていると、ドアが開いて中から男が出てきた。
思わず声をかけていた。
「あのー・・・昔、この周りのドブでグッピーとか採ってたんですけど・・・今はいないですかね~?」
すると沖縄人らしい丸い目をクリクリさせながら30くらいのおにいさんが答えてくれた。
「懐かしいねぇ~・・・。
今、それ知ってる人、少ないよ!!。
そこの道の先に駐車場があるでしょ。」
「あー、はい。」
「あの駐車場が昔の工場があったところ。」
「へえ~」
「工場には井戸があっただけど、今は上から井戸に蓋をして駐車場にしちゃったんだ。
今でも井戸は残ってるはずなんだけどね・・・」
「・・・・」
「そうそう、一度ドブのフタの下に子供が入り込んで出られなくなって大変だったんだよ!!」
(!!)
大きなサカナには側溝のフタのある部分に逃げられて、いつも悔しい思いをしていたのだ。
サカナを追ってフタの下から出られなくなった子供の気持ちが手に取るようにわかった。
「懐かしいねぇ~」
普段ほとんど誰とも共有することのない風変わりな記憶を僕らは交換して、そして別れた。
だから今の僕は自信を持って人に言える。
「子供の頃、那覇市内のドブでグッピーを掬っていたんだよ」

