もともと日本の会社では、監査役という役職には特別なニュアンスがあった。最近は多少変わったかもしれないが、これはみんなが当然知っていたこと。
日本企業の子会社にいたあるとき、ある人が監査役としてご本社からやってくることになった。
その人、T監査役は本社では営業をしていたひとらしい。ご本社にそのTさんを押しつけられるときに
「監査役っていうのは、処遇のためだけにあるポストじゃないんですよ」
というような、あまり美しくない会話が本社との間に行われたように聞いていた。
とは言え、ちょっと前までこれはごくフツウのことだったのだ。
子会社の監査役などというものは、サラリーマンの社内キャリアの終着駅。本人の経験能力なんて無関係に一年くらい任命し、別にその間の監査役としての働きなんてどうでも良い、という名誉職。
むしろ、逆に監査役が働くと働いただけ問題が発生し、関係者も困るので「大人な監査役」は会社の大先輩として敬意をもって扱われるかわりに、ニコニコして新聞でも広げながら特になにもせず、午後の三時を待たずに「何か用事があるから」などと言って早々に帰っていくことで、下々に迷惑をかけないのが「お約束」であったのだ。
さて、くだんのT監査役はそんなお約束を果たすべくやってきた。営業としての経験しかなかったので、着任直前に「監査役研修」なるものまで受けてきたらしい。
ところが、不幸なことに、この子会社にとって本社から降ってくる監査役は、T監査役が初めてであり、なぜか子会社の社員たちにはこの「お約束」が教育されず、新任監査役はほとんど一般社員に紹介されることさえもなかったのである。
その結果、この子会社の社員たちはT監査役のことを誰だか知らないので単に無視しつづけ、T監査役は誰からも「会社の大先輩として敬意をもって扱われ」ることなく、話しかけもしてもらえない知らない人として扱われたのだった。
それでも一応、T監査役は特になにもせず、早々に帰っていくという「大人な監査役」を演じ続けていたのだが、ニコニコ笑顔にもなれず、「オレを誰だと思っているんだ」と不満をため込んでいたらしい。
そして、そんなある日のこと。
社員に挨拶されず、全く敬ってもらえないT監査役がとうとうキレる日がやってきた!!
通りがかりの不幸な一般社員・・・・僕。
たまたま僕が彼を監査役と知っていたこともきっと災いした。
キレた監査役は、僕に向かって命令然として怒鳴りつけた。
「監査役として、キミに指示する!!」
だいたい、監査役さんが一般社員をただ一人捕まえて、突然怒鳴りつけるなど「反則」である。
しかし、追い詰められたT監査役にとっては、会社の大先輩として敬意をもって扱ってもらえないのは、この上ない侮辱であり、もはや、下々に迷惑をかけないなどという「お約束」を果たす義務もなくなってしまったのであろう。
思うに、もう一世代前のおじい様たちは予定調和から多少外れても大人な対応ができる器があったのだが、最近のおエライさん世代は小粒になりすぎて、そんな能力・余力がなくなっているような気がしてならない。
2 件のコメント:
あははは。
ばかばかしいけどお気の毒〜。
さらにその監査役の大先輩の怒りの矛先があたったたまーむさんはさらについてない〜。
ご愁傷様でした。
猫やしきさん
いつもコメントありがとうございます。たあいもないことを書いて、ばかばかしいって言ってもらえれば、このブログは目的達成なのです、はい。
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