今は違うのかもしれないが、当時ソフィアの町を走っている車は僕の目からはポロが多いようにみえた。
東独トラバントとかがメインに走っており、通過後には石畳の砂ぼこりと排ガスが混ざった「ソフィアの香水」を作ってくれる。
そしてこの点はタクシーも例外ではなく、
「この車は途中で壊れないだろうなぁ・・・」と首をかしげたくなるような外見のタクシーも少なくなかった。
公衆電話はほとんど全部故障しているし、故障して変なところに止まられたり、ボラれる恐れも大きいように思われた。
とはいえ、帰るにはタクシーをつかまえて空港に行くしかない。
ノボテルの前に停まっているタクシーを相手に料金の交渉を始めた。
「空港まで、いくらだ?」
すると運ちゃんはメーターを指さして
「メーター、メーター!!
ノー、プロブレム~
ノー、プロブレム~ 」見るからの車はポロそうだし、このアインシュタインみたいな爆発博士ヘアの運ちゃんは、どうにもインチキくさい。
だいたい、何も聞かないのに「ノープロブレム」を二回も繰り返すような奴は何かあやしいに決まっている。
どうも怪しげなアインシュタイン・ヘアの運ちゃんから何とか、空港までの金額を先に決めてしまえないか苦心の交渉をしていると、ふと、後ろから日本語が聞こえてきた。
「日本の方ですか?」あまりに場違いな日本語に一瞬何かの間違いかと思ったが、振り向くと
そこには黒ぶち牛乳瓶メガネの日本人の、おさげの女の子が一人立っていた。
「!」おそらく聞いたこともないであろう日本語にさすがのアインシュタインも沈黙。僕も沈黙。
「お困りかと思って」とわざわざ声をかけてくれた彼女は、ソフィアに一人留学しているのだそうだ。
日本人がソフィアに留学するときに学ぶものは、どんな内容なのだろうと思いつつ、沈黙したままのアインシュタインを尻目に、しばし日本語の雑談。
彼女は、おそらく久し振りなのであろう日本語の会話を心底、楽しんでいるようだった。
そして、
「この辺で信用のあるタクシーは、『2150』か、『2121』のOKタクシー、ということになってます。」と教えてくれた。
ちらっと、アインシュタイン・タクシーを横目で見ると、明らかにOKタクシーではなさそうだ。
つまりアインシュタイン君のは、Not OKなタクシーだったっていうこと。僕は、彼女の助言に従い、、『2121』のOKタクシーを探しあててソフィア空港に無事辿り着いた。
ずいぶん昔のことになりましたが、その節はお世話になりました。
ブルガリア旅行「リラに行く」終了

