彼はマサオと名乗っていたのだが、彼の年齢に経緯を表してかみんなに「ミスター・マサオ」と呼ばれていた。
ファースト・ネームにミスターを付けて日常的に呼ばれている、などという変わった人は後にも先にも彼だけであった。
これには寮では珍しい高年齢だ、というほかにも原因らしきものもあった。
まず、ミスター・マサオは文句なしに善人だった。
どうからっかても絶対にニコニコ真面目に聞いてくれる。
更にミスターは英会話学習のために2年以上も寮に住み、英語の学校に通っていたのだが、ミスターの英語はあまり、というより全然上手くなく、しかもどうしようもなく日本人発音だった。
例えば、but と言うときにはちょっと溜めて空を見上げ、
「えー、ばっとぅ~」
と延ばしながら、なかなか出てこない次のフレーズを考える、という具合だ。
まあ、つまりミスターはみんなにナメられていたのだが、彼が高年齢にもかかわらず一生懸命に英語を学習し、清く正しい生活をしているのは疑いようもなくそれがミスターと呼ばれていた理由と思う。
つづく
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