シューカツをしていたころ、僕は一度、ある高速道路に関係するお役所の面接を受けたことがある。
面接には、僕のほかにもう一人やや小太りの黒ぶちめがねの濃い男〔以下、勝手に「ツタ男」と呼ぶ〕が来ていた。
さて、面接室には、ツタ男と僕の二人が同時に呼ばれて入り、中には若くてシャープな感じの面接官の男性が一人いた。
面接官殿はまず書類を見ながら、ツタ男の面接をはじめた。
「なるほど、東京大学で、△△文学をご専攻されているんですね。」
ツタ男がたどたどしく答えた。
「・・・はい。そうです。」
「ところで、高速道路についてどんなイメージをもっていますか?」
すると、ツタ男はちょっと考え、そして不器用そうにこう言った。
「高速道路は・・・、醜いと思うんです。。。」
この男、とても世間ズレしていないか、そうでなかったら余程の大物に違いない。
高速道路関連の仕事をしようと応募して、その面接に来ている学生は、普通はこんなコメントはしないに違いない。
それとも、絶対に落とされない東大の自信がなさるワザか?
面接官殿はまったく表情を変えずに質問を続けた。
「醜い、それはどういう意味ですか?」
「えー・・・・、街の中に、コンクリートの高速道路がむき出しで走っている、というのは全然美しくない、と思うんです。」
「なるほど・・・。その『醜い高速道路』について、あなただったら、どのように変えたいと思いますか?」
彼はちょっと天井を見て考えながら答えた。
「あのー、えーとですね。私だったら・・・・、
例えば、高速道路には、一面にツタを這わせたりしてですね、少しでも美しくしたいと思うんです。」
横から聞いていて僕は、高速道路にツタを這わせたら、錆びたり、根っこがコンクリートにひびを入れたりして、問題になるに違いないと考えたが、ツタ男の頭の中には「美」という絶対基準が優先しているようだった。
その後、ツタ男がどうなったのか知る由もないが、彼が面接に受かったのは間違いない。
だから、僕は今でも高速道路を見ると、いつの日か、あのときの男が醜いコンクリートにツタを這わせて美化してくれるに違いないと、心待ちにしているのである。
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