新市街側の船着場・カドゥキョイにいた僕は、旧市街に戻るのに、橋を歩くのは面倒くさいので船(ドルムシュ)に乗って渡れないか、と考えた。
せっかく来たのだがら、来たのと同じ道ではつまらないし、いろいろやってみようというわけだが、実はこれが大きな間違いだった。
イスタンブールでは船・ドルムシュで通勤している人が少なからずいるらしい。
チケットの替りにビレットと呼ばれるコイン(というよりトークンというべきか)があり、ビレットには碇のマークが刻印されていた。
夜8時半。ほぽ満員の船・ドルムシュが出港。
霧もやの中から、オレンジ光の街灯で旧市街が浮かび上がる。
おや、船がどんどん岸から離れていくぞ!!
旧市街の港・エミノニュに行くつもりだったのだが・・・・。
たまたま隣にいたトルコ人のおじさんを捕まえて聞くと、この親切なおじさんはひたすら熱く、激しく説明してくれた。
「いいか君たち!!
新市街・カドゥキョイを出発して、旧市街・エミノニュに行く船・ドルムシュは存在しない!!
よく覚えといてくれ!!」
「わかった。
で、ところでこの船はどこに向かっているの?」
「この船の行先は、カディキョイだ!!」
船はそろそろボスポラス海峡の真ん中に差し掛かっていた。
「???
この船は、新市街のカドゥキョイを出発して、どこに向かっているの?」
「カドゥキョイを出発して、エミノニュに行く船はない!!
これは、カディキョイ行きだ!!」
地名が頭に入っていないので混乱していた僕だったが、少し飲み込めてきた。
「この船は・・・・『カドゥキョイ』から、『カディキョイ』に行くんだね?」
なんて紛らわしい名前なんだろう。
「その通りだ。
カドゥキョイを出発して、エミノニュに行く船はないのだ!!」
「それで、『カディキョイ』っていうのはどこ?」
するとおじさんは、船の進行方向を指さした。
「あそこだ!!
あれがカディキョイだ!!」
船はボスポラス海峡をほぼ渡りきり、海峡東側の港、つまりアジア側の陸地に向かっていた。
イスタンブールにおいて、船・ドルムシュを使って通勤している人たちというのは、つまりアジア側に住み、船でヨーロッパ側に通う人々のことだったのだ。
接岸する間もなく乗客たちは慣れた様子で、降りて行った。
船から岸壁に降りると、例のおじさんが寄ってきてこう言った。
「いいか!!
カドゥキョイを出発して、エミノニュに行く船は存在しない!!
カドゥキョイから、エミノニュに行くには、ガラダの橋を渡るんじゃ!!」
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