以前勤めていた会社で、ある日、先着数名に活・上海ガニを社内販売する、との一斉連絡が流れた。
断わっておくが、僕は食品関係の会社に勤めたことはない。
どうして会社で活・上海ガニが社内販売されたのか未だによくわからないが、とにかく僕は、上海ガニを食べたこともなく、調理方法もわからないまま、いち早く申し込んだ。
金額は確か、活・上海ガニ 1匹・800円。
これを2匹申し込むと、社内販売の主は、黙って小さな紙袋を一つくれた。
紙袋を受け取ってぶら下げると、なにやら、ガサガサ動いているのが感じられた。
上から除くと、紙袋の平らなマチ部分に緑色のカニが2匹いた。
後年、香港や上海の街で見かけた上海カニは、みんな脚を紐か何かでしばってあったが、このときのカニには足かせも何もついてなくて、全くのとってきたままだった。
さて、会社で昼過ぎに、生きたままの上海カニを受け取ってしまった僕は、もうその日は仕事どころではなく、頭の中はすっかりカニのことでいっぱい。
さっそく、オフィスで一緒に働いている北京出身の徐君をつかまえて、聞いた。
「あのさ、さっき社内販売で、上海カニを買ったんだけど、どうやって食べたらいいかな?」
徐君の回答はクリアだった。
「それ簡単。蒸し器を用意して、上海カニを生きたまま入れて蒸す。」
「へーえ。味つけはどうするの?」
「しょうがを刻んで、中国の黒酢とまぜたやつに、上海ガニをつけて食べる。
もっといろいろ料理の方法ある。
でも、こういう簡単な料理が一番おいしい。」
「そうかぁ・・・」
「もしあるんだったら、蒸し器に入れる前に、上海ガニに紹興酒をかけるともっといい」
「つまり、生きたやつを紹興酒で泳がして酔わせとく?」
「そう。カニも酔わせて、自分も飲んで酔うと、もっといい」
さて、
定時に会社を飛び出して、黒酢と紹興酒を買い、上海カニがガサガサ動く紙袋をぶらさげて帰宅した。
さっそく蒸し器を火にかけて、紙袋をひっくり返してカニを台所の流しに出したときのことだった。
シャカシャカシャカっと、すばやく、流しの中を横走りして、隅っこにひっついた。
紙袋の中でも上海カニはまだまだ全然元気だったのだ。
なんとか、調理を終え、蒸し器を開けると緑色だったカニは、きれいな赤い色に変わっていた。
殻をカパッと開けて、徐君の指示通り、"しょうが+黒酢"で食べた上海カニのおいしかったこと!!
ああ、なんて上品な味なんだろう!!
その翌週、妻メグミは、当時通っていたフランス語の教室で、元気に台所を走り回る上海ガニを無理やり蒸し器に放り込んで、料理した話を語ったところ、フランス人の先生から、なんと
「モンストル(monstre = モンスター)」
と呼ばれていた。
以降、彼女は数か月にわたって「モンストル」のニックネームで呼ばれることとなったのだった。
なんでさ?
生きたカニを蒸し器に放り込むのは、そんなに野蛮なことなのか?
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2 件のコメント:
なんだかこの「台所を走る・・・」という題名がなかなかシュールで笑えました。
確かフランスの市場でも動いている海老なんか売ってましたけどねえ。
そういえば前にうちのダンナに「踊り食い」の話をしたらそれはもう驚いていました。
「踊り食い」はさすがに欧米人には無理でしょうね。
あろあろさん
いつもありがとうございます。
まあ、日本人でも、こういうのはだれでも家庭でやる、というものでもないようですね。
確かに、踊り食いを食べてるガイジンは見たことがありません。
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