珍しく上海に出張したときのこと。
先輩のNさんに、同期入社のE君がいろいろと案内してくれ、夕食になにやらトリの足がホネホネのまま入った中華スープを食わせてくれたりした。
夕飯を食べ終わる頃、E君がいった。
「さて、このあとどうする? 飲みに行く、カラオケか、マッサージか、それとも・・・・」
「・・・・」
「まあ、カラオケにするか。」
といって、携帯を掛けて中国語で予約を始めた。
なにやら、『ぴゃおりゃん(綺麗)な小姐』、が居るか居ないかなんて聞いている感じだ。
どのお店も『美人が居るか』と聞かれたら、居るって答えるに決まってるじゃないかと思ったが、
でもカラオケに行くんじゃなかったのか?
10分後、タクシーでカラオケ店の前に到着。
エレベータを2階にあがりながらE君は、こう説明した。
「カラオケには、日式と、台湾式があるんだけどさ、人数が少ないから日式にしたから。」
「何が違うの?」
「日式は人数課金、台湾式は部屋数で課金だ。」
「ふーん」
入った感じは、やや豪華なカラオケボックスという感じだ。
「入って、そっち、すわって~」
座ったところで、肩を出した衣装のスタイルの良い若ーい女たちが10人ほどゾロゾロ入ってきた。
座った僕らのテーブルの前に一列に並んでいる。
「これがカラオケの当たり前だから。はい、じゃあ、選んで~」
「は?・・・え、何人選ぶの?」
「バカ、一人に決まってるだろ。
この店は70人くらい、女がいるらしいから、気に入らないって言ったら、
また、ホントにずらっと次の10人が出てくるから。」
「ええっ!!」
顔をあげると10人が全員、こちらを注視している。全員すごく若そうだ。こんなに見られると、こっちの方が恥しい。
「じゃあ、彼女。」
そういって、左から三番目の彼女を示すと、彼女がこちらにやってきた。
すると、NさんとEは、あっさり、それぞれ指名を完了し、指名に漏れた残り7人は立ち去って行った。
Eがこういった。
「言っとくけど、彼女たちは一緒にカラオケするだけだからな。」
さて隣に来てくれた女の子は僕の方を向いてにっこりし、ポケットから小さな紙切れとペンを取り出した。
漢字で筆談を始めるのだ。
彼女は、自分の名前と西安と紙に書いてみせてくれた。そして身振りで僕の名前を書けといっているようだ。
ちらっと横を見るとNさんとEもしゃべりながら、紙に名前を書いてやりとりしている。
ここはカラオケボックスじゃなかったのか?
指名してから僕らは、筆談とつたない中国語でコミュニケーションをし、
30分くらいしてからようやくカラオケを始めた。そんなものらしい。
僕は彼女と一緒にカラオケをうたった。
19才の西安出身の彼女は、しきりに次の出張はいつか聞いてきた。でも、そんな予定はない。
店を出るときに、僕は二度あうことのない偶然指名した彼女に手を振り、Eと一緒にタクシーに乗り込んだ。
万一、次に出会うことがあっても僕には彼女を認識できないだろうと思った。
幸か不幸か、それ以来、僕には上海出張の仕事はなく、今でも上海出張というとカラオケを思い出す。
こんなことはルーチンに中国出張する人にとって、いまさら言うまでもない当たり前のことなのだが、案外こういう内容がエクスパットや、外資の人間には未知の世界だったりするのである。
面白いと思えたら、クリックお願いします
0 件のコメント:
コメントを投稿