あるとき、留学寮の中の共用スペースがどうもうるさい、と思って部屋から出てみると、キッチン+共用スペースで、パーティーが行われていた。まあ、しょうがないなと思っていたが、夜半になるとだんだん人数が減ってきて、ガヤガヤしなくなったが、なにやら音楽がうるさい。
ほとんど人の気配がしないので出て行くと、真っ暗になった共用スペースのテーブルの上にラジカセだけが鳴っている。そこで、誰もいないしと思って、停止させた。
と、その瞬間、部屋の隅のソファから怒鳴り声が聞こえてきた。
「オイ!! おまえ、なにしやがるんだ!!」
見ると胸毛の濃いいかにもイタリアなまりの男がソファから起き出してきていた。
「おまえ、このオレサマが、せっかくリラックスしてミュージックを聞いていたのに、それを途中で止めるとは何事だぁ!!」
「ちょっとうるさいから止めたんだけど」
「なに~、世界で最高に素晴らしいこのイタリアン・ミュージックを途中でとめるとは何だ!!」
この男、本気に怒って顔前に迫ってきた。しかもかなり酔っている感じである。
どうやら、怒りのポイントは聞いていた曲を途中で止められたことにあるらしい。
が、このそもそもこの男、どっから来たのかもわかんない部外者である。
しかも、イタリア文化を笠にして、夜中の三時に他人のスイートで轟音を鳴らしているのに、
いいわけがなく、このまま引き下がるわけにもいかない。
「パーティーはもう終わってるぞ、帰れよ!」
「人が楽しんで聞いているミュージックを途中で切るな、バカヤロー!!」
「パーティーは終わってるんだから、ミュージックは自分のところで聞け!」
「うるさい、いま楽しんでいるのがわからないのか!!」
「こっちはここに住んでいるんだ、お前はここに住んでないだろ!」
「お前は、このすばらしい音楽がわからないのか!!」
「ここで寝てるんだよ。すばらしい音楽は自分の家で聞け」
この酔ったイタリア男で頭をつき合わせて、口論することしばし、なんとか撃退して
静かな夜を取り戻した。
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で、その翌日午後のこと。
まったくのたまたまだが、近くの通りを歩いていると、
昨夜のイタリア野郎が歩いて向こうからやってくるではないか。
げっ、あいつ昨日のことで絶対なんか言うに違いない、と身構えたそのとき、
やつは、10年来の親友にあったかのように満面に笑みを浮かべて、
「ハーイ」
と握手をしてきた。
で、チカラ強~い握手を終えて最後に、
「またな !!」
と言ってとてもフレンドリーに去っていった。
こちらは、この間ずーっと、まったくキツネにつままれたような感じだったが、あのイタリア野郎にとって、僕は「やつは男だ」みたいな、そういう何かの認められ方をしたような、そんな気がした。
もっとも全く自分の非を認めて謝るようなこともなかったから、あれは単なるテレ隠しだったのか?
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