ルルルルルル
「はい。Uです」
電話からは、初老の男性の声がした。
ま、まさか本人!!
てっきり奥さんが電話に出ることを予測していた僕はいささかうろたえた。
「あ、あの、こんばんわ。
□□□寮の3XX室に住んでいる者ですが、Uさんをお願いします。」
「私がUです。どうも、こんばんは」
その男性、Uさんはとても落ち着いていた。
「あのー、☆☆☆という名前の女性から毎晩のように電話が寮の私の部屋に掛かってまして、
えーと、あのー、Uさんにどうしても用事があるので、
なんとか電話を取り次いでほしいということで何度もお願いをされまして、
それでー、あのー、こうしてお電話している次第なんですがぁ・・・。」
「あー、そうなんですか。それは大変ご迷惑をおかけしました。」
僕の予想に反して、Uさんの声は会社のえらい人のものとは違い、とても平らかで、優しく、僕に対する思いやりに満ちていた。
「じゃあ、きっと彼女からもいろいろと話を聞かれているんですね。
彼女はもともと、現地に赴任しているときの僕の部下でしてね、とても優秀でした。」
なるほど、確かに彼女の話ぶりは知的だったし、実行力も実証済みだ。
「今は、職場の全員に彼女からの電話を無視してくれるようにお願いしていましてね。
この家の方も、妻はいったん実家に帰したりして、一人で休憩をしているところなんです。」
「・・・・そうなんですか」
Uさんの声は会社での出世をすべてあきらめ、なにもかもを失って、静かに暮らしている者のみが発する落ち着ききった、不思議な優しい声だった。
「そういう状況ですから、申し訳ないがあなたにも協力していただきたいのです。
彼女には『電話を掛けたがUは不在だった。』、必ずそう伝えて電話を切ってください。
これは会社のオフィスを含めて、関係の出てきた全員に協力してもらっています。
そして『電話を掛けたがUは不在だった。』という以外の情報は一切伝えないでください。
あなたにも、ご協力いただけますね。」
仕事が出来る大部長にとって、僕みたいな入社2年目の小僧にこんな説得をするのはわけないことだったのかもしれない。
僕は心の中で、なにかがぷちっと切れてしまったのを感じた。
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2 件のコメント:
ぶちっと切れて、そのあと
どうなるのですか!!!!笑
この人はずっと同じように
女性に接してきていたんでしょうね。
続きを楽しみに今日一日がんばってきます!
あ、あのー。
あんまりハッピーじゃない終わり方ですみません。。。
もともとこいつは
「私はこれで日本企業をやめました」
っていうシリーズなので・・・。
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