カギのかかったドアの外から男が力強くドアをたたいている音で僕は目を覚ました。
ここは、フランスに向う夜行列車のクシェットのコンパートメントの中。
ドンドンドン!!
これは、いったい強盗なのか・・・
と、下段クシェットから寝る前に雑談していたミラノに住むフランス人の彼女の声がした。
「警察よ、カギを開けて!!」
僕が手を伸ばしてロックを開けたとたん、制服の警察二人組がはいってきて電気がついた。
警察は僕ら一人一人、順番にパスポートの顔写真と本物の顔を見比べてチェックを始めた。
まず、例のフランス人女性の二人、それから僕もあっさりOK。
一人のフランス警官と彼女らはなにやら早口で会話をしている。
その間に、もう一人の警官はこの後に及んでまだ、完璧に寝ていた東洋人カップルがたたき起こした。
東洋人カップルの顔とパスポート写真を比べること、5往復。
「・・・・・」
警官は彼らの手を引っぱり、なんと東洋人カップルは連行されていってしまった。
えぇっ!!
まったく予期していなかったこの展開に客車の通路に出てみると、真夜中なのに、客車内の全部のコンパートメントのドアが開いて大勢の乗客が起きだしていた。
そして、あっちでもこっちでも男女関係なく、わくわく興奮したようすでフランス語で盛り上がっている。
なにかこう、行きずりの人同士、ゴシップネタですっかり盛り上がっている感じ。
なにがなんだかわからないまま、ぼーっと彼らを見ていたら、一人のおじさんが僕に気がついて、英語で話しかけてきてくれた。
「あの連行された二人は、本当は中国人なんだけど、偽の日本人パスポートを使ってたんだ。」
「え!!」
「でも、パスポートの年齢では48才となっているのに、実物があまりに若かったんだって。」
そういえば僕は、勝手に彼らをハネムーンだと思い込んでいた。
「その上で日本人のキミが『日本語を話していない』って言ってたのを、ミラノの彼女が警官に伝えたのが決定的だったんだ。」
「・・・・・!!」
さっき彼女が警官と話し込んでいたのは、そういう内容!?
僕はさっきのことを思い出して黙っていると、今度はその隣からコートの紳士がやってきて言った。
「キミは最初から、彼らがインチキだ、って知ってたんじゃないか?」
「えっ・・・・あ・・・」
言われてみれば確かに、僕は彼らが日本人でないと確信した上で、日本のパスポートを提出するところも見ていた。
これで何も知らないと言ったら僕は、あまりにもナイーブということだろうか?
でも、ドキマギする僕に構わず、コートの紳士は楽しそうに雑談をつづけた。
「この列車ではときどきこういう事件があってさ、以前にも男が女装して、女性パスポートを使っているのがバレてつかまっていったのを見たよ。」
その後、あの中国人カップルがどうなったのか僕には知る由もない。
でも、『ハネムーンの中国人カップル』が『僕のせい』もあって、フランス警察につかまり、その様子が周囲にたまたま居合わせたフランス人達の非日常・娯楽ネタを提供したという事実は、その日の僕にとってあまり気分のいいものではなかったように記憶している。
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2 件のコメント:
なるほど偽のパスポートで入出国するってよく聞きますが
犯行現場に居合わせることってちょっとないですよね。
その中国人がどうやって偽のパスポートを手に入れたのか気になります。
シロウトでも簡単に手に入るものなのでしょうか・・・
うーむ。。。正直なんにも知らないので、全く答えられない質問ですが、どっかで買うんじゃないでしょうか?
シロートでも一定以上の金を寄付すれば、一部の変わった国ではパスポート発行してくれることもあるみたいですよ。。。
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