あるとき、たまたま日本人ヨシコと留学寮の近くを歩いていると、向こうから白人美人がやってきた。
白人美人はヨシコと知り合いらしく、ヨシコに向ってハーイとあいさつした。
そのあとそのまま通り過ぎると思いきや、白人美人はいきなり、僕に向かって
「いいかげんにやめてくれる!!」
と叫んで行ってしまった。
僕は彼女が誰だか知らないのに、なんでいったい・・・・???。ヨシコに聞いてみる。
「誰、今の?」
「ソフィー。留学寮のスイートが一緒なの。だから知り合い。」
「で、何、今のは? 何で知らないソフィーに怒られるの?」
「さぁ!? あんた、何かやったんじゃないの? ハッハハハ」
さて、そんなことがあった数日後のこと。
ヨシコとフードコードでお昼を一緒に食べていると、ヨシコはソフィーの話をし始めた。
「この前、ソフィーに怒られたでしょ。」
「うん、あれね。」
「ちょっと思い当たることがあって。最近、スイートでよくソフィー宛の電話を取り次ぐのよ。」
(スイートの電話取り次ぎについての状況は スイートについて )
「んで?」
「ブライトっていう名前の男から、ソフィーに電話がかかってるんだけど、ソフィーは嫌がってるの」
「なんで、それが僕に関係あんの?」
「電話の声しかわからないけど、ブライトってね、あんまり英語がうまくないのよ。」
こういうときのヨシコはときどきトンでもなくするどいことがある。
「何がいいたいわけ?」
「・・・もし、ブライトがアジア人で、あんたに似たような男だったら・・・」
「日本人がソフィーにしつこく電話をしてるのを、ソフィーが僕と勘違いして怒ってたってこと?」
「日本人じゃなくても、ソフィーから見たらアジア人なんてみんな同じ顔に見えるんじゃない?」
「なるほど、そうかもね」
それを聞いているのかいないのか、ヨシコは天井を見つめながら集中していた。
「わかった!! あいつよ、ミンよ!!」
「は?」
「ベトナム人のミンっているじゃない、あいつよ絶対!!」
「確かにアジア人で背格好は似たようなものだけど、なんでミンなの? 」
「ミンってさ、ベトナム人だけどホントは華僑なんじゃない」
「うん、それで・???・・・話がよくみえないんだけど・・・」
「ミンの姓の漢字は、明るいの『明』で『ミン』なのよ。
で、だから『ブライト』って名乗っているの。」
「・・・・うーん・・・」
僕にはあんまり納得もしなかったが、なぜかヨシコは自分の推理に納得してしまっていた。
その日の夕方、たまたま留学寮の地下にいくと、ちょうどそのベトナム人ミンが卓球をしていた。
僕の頭の中はもちろん・・・。声を掛けてみた。
「ハーイ、ミン!?」
「ハーイ元気?」
「お前、最近、新しい名前持ってるんだって、なぁ・・・ブライト」
落ち着いていたミンの表情が驚愕で豹変してゆがみ、ヨシコの推理が正しいことを物語っていた。
が、次のミンの行動は早かった。ミンはさっと僕の背中に手をまわして、部屋の隅につれていった。
「な、な、な、なんでお前、それを・・・・」
もちろんすぐに、ヨシコにその話をしたが、ヨシコは僕が語るまでもなく確信していた。
すごいカンとしかいいようがない。
「ん、ちょっと待て。ってことは、僕はソフィーに人違いで怒られたってこと!?」
「そうよ。最初っから そう言ってるじゃない」
「くっそー、ソフィーめ!!」
「アーハハハハハ」
このときのヨシコの笑い声はいつまでも僕の耳の中に残って消えない。
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