留学寮にいたあるとき韓国人ジュンキュが、廊下の向こうからただならぬ雰囲気でやってきた。
一見してかなり怒っている様子だ。
「あいつだ、あいつがやりやがった!! 絶対にゆるさん!!」
「どしたの?」
「あの野郎、オレのメシにペッパーぶちまけやがった。こっちに来て見てくれ」
共用キッチンに行き、白いシンプルな炊飯器に近づいて、ジュンキュは、フタを開いてみせた。
炊けた御飯の表面に、粉ペッパーが黒くブチブチと広がっていた。
ペッパーの量はひとビン全部くらいか。確かにこれではこのご飯はとても食べられない。
キッチンのゴミ箱には、空になったペッパーのビンが捨てられていた。
こんなことをやるのはご飯を食べない文化圏の人かな、とは思う。それより何より、やり方が陰湿だ。
「あの最近やってきたベルギー人に間違いない」
「マルセルのことか?」
「あいつはいつも俺達東洋人をバカにしてるんだ」
「・・・・・、マルセルがやってるのを見たのか?」
「昨日の夕方まではOKだった。あいつは、いつも夜酔って帰ってくるだろ。夜中に酒に酔って、俺達をバカにしてやったに違いない」
マルセルが夜中に"Nopy Nopy !!"と意味不明な言葉を叫びながら、
酔って帰っているのは事実だった。
結局、この事件は、真相がわからないまま今に至る。
しかし、ほとんど東洋人としか話をしない傾向のあるジュンキュと、あまり同じスイート〔10部屋+共用スペース〕の住人とコミュニケーションしないマルセルとが、ギスギスしていたと思うのは二人それぞれの偏見か、それとも僕の思い込みか・・・・?
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