沖縄県 残波岬。僕にとっては特別な場所である。
先日、姉が30年ぶりにこの地を訪れて、携帯で写真を送ってくれた。
子供の頃、この場所にはよく大潮の日に訪れて一家で潮干狩りをした。
まず、潮が引く前に現地に到着して、潮が引くのを待つ。
残波岬は潮が引くと岩場潮溜まりがずっーと広がるので、潮が引くのにあわせて順番に沖に向かっていき、潮溜まりにいるサザエなどをガッサリ取って帰ってくるのだ。
大人たちが、サザエや、シャコなどを必死になっている横で、幼稚園児の僕はなぜかいつも、イワガニというカニを取っていた。
イワガニは、小さな僕が人差し指と親指で捕まえるのに丁度いい大きさだった。
茶色くて、甲羅の表面全体は小さな丸いブツブツで覆われ、岩場のくぼみに隠れている。
イワガニが穴に完全に入りこむ前に甲羅を押さえて捕まえたり、あるいは岩に張り付いているイワガニを人差し指でうまく引き剥がして、甲羅を後ろからつかんでバケツに放り込む。
ところで、このイワガニっていうカニは、食えるわけではなく、見ても綺麗なものでもなく、つまり何の役にも立たないのだが、僕は誰に言われたわけでもないのに、一日中イワガニ採りに没頭し、大人たちがサザエをバケツ一杯取って引き上げる頃には、数十匹のイワガニを取っていた。
さて、僕は、イワガニが何も役に立たず、そんな簡単には飼えないこともわかっていたのだが、帰るときにイワガニをどうしても逃がすことができなかった。
あんなにがんばって捕まえたものを、そんなに簡単に逃がすわけにはいかない、みたいな所有欲。
バケツ一杯にうごめくイワガニを持って意気揚揚と家に帰ってきた僕は、ベランダにバケツを置いて寝た。
その翌朝、僕はイワガニがどうなったのかバケツを覗き込んで
「おぇーっ!!」
と叫んでいた。
バケツの中では、数十匹いたイワガニが全て死んでいた。
数十匹の「死にガニ」のにおい。
幼稚園児の僕は、その日、自分の所有欲によって引き起こされた当然の帰結に直面し、深く後悔したのだった。
僕は、残波岬の携帯写真を見ながら、今一度、あのカニ達の冥福を祈った。
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