学生だったころ、僕はいろいろなレストランでバイトをしていた。
今はなくなってしまったフレンチ・レストランでウェイターのバイトをしていたときの話。
レストランは一階と二階とに分かれていて、僕はいつも2階でレストランで最近、本店からやってきたというKさんという人の下で働いていた。
レストランの中っていうのは、通常、厨房世界と、客にサービスするホール世界とに分かれているのが普通だ。
大げさに言うと商工分離とでもいうのだろうか。
で、厨房のボスとしてシェフがいて、一方のホール世界のボスとして、「店長」がそれぞれいた。
シェフは自信たっぷり、フランス仕込みの日本人。
店長はまた、なんていうのかな、いかにももてそうな、ちょい悪系の日本人。
二人はウマがあっているようにも見え、いつも客もうまく入っていた。
さて
ある日の午後のこと、僕がバイトに店に行くと、Kさんのところに行くとこう言われた。
「あのさ、今日からさ、シェフも店長もいないから。」
「は?」
「シェフと、店長はずっと『ワインの横流し』しててな。
いろいろ調べて、はっきり証拠をつきつけたんだ。
だから、シェフと店長も、もう二度と戻ってこないから。」
「はい、わかりました」
いったいそれ以上何をいうことがあろう。
そういえば本店からKさんがやってきたのが約2か月前。
アクの強いシェフと店長に実直に従っているように見えて、実はKさんは、
横流し調査のために本店から送り込まれたエースだったのだ。
かくて、シェフ&店長コンビは店から永久に追放された。
店内に革命が起こったのだ。
かつて力の弱いナンバースリーとも見えたKさんは厨房世界をも統べる絶対権力者に変わった。
数か月後には、Kさんは一階の隅の席に彼女を呼び、特別料理を出すまでになっていた。
今? 跡地は全然違う居酒屋になってます。
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