2009/05/07

シロート、特許を書く

日本企業にいたあるとき、なぜか会社の研究者数人が新商品やら新しいアイディアを練ったり、特許ネタを思いつこうといった集まりに研究者の知り合いに誘われて、なぜか参加してしまっていた。

休日に自費で旅館に集まるという殊勝なイベントである。

旅館の一室に車座になって座ったところで、研究者の取りまとめ役、Hさんがメンバー全員を紹介してから、ポストイットを配り始めた。

まずはそれぞれ個人でアイディアを考えてポストイットに書く時間。

しばらくしてそれぞれがポストイットを何枚か書いたあと、お互いに書いたものを見せながらディスカッションを始めた。

研究者のみなさんの書くものはそれぞれ具体的で、しかも実現方法のあるものばかりだ。

Hさん、ポストイットを並べなおしながら聞いてきた。

「ところで、これ気になるんですけど、どういう意味ですか?」

僕の書いたものだった。

「太陽まくら」と書いてあるやつ。

どうしようと思いながら、一応、説明してみる。

「昨日、まくらと布団と久々に干したんですけど、干した布団ってその日に限って『太陽のにおい』がするじゃないですか。布団乾燥機で乾かしたのとは違ういいにおいが。だから、布団を干さなくても太陽のにおいがするまくらがあったらほしいな、と思って。」

「うーん・・・・・」

研究者集団が一斉に真剣に考えはじめた。なんだか申し訳ない感じだ。

こっちは適当な思いつきを語っているだけなのだが、こんな、ないものねだりを一生懸命考えてくれている姿を見るのは実にこっけいだ。

結局、この日僕らは何のアイディアもちゃんとまとめられずに終わった。

でも、新しいアイディアを考えるっていうのはこんなものらしい。

何かキーワードがあって、それをスタート地点にしていろんな発想を出していく、という感じ。

約一年後、少しメンバーが入れ替わったものの僕を含む3人は、ぜんぜん違う内容でついに一件の特許出願を会社名で提出した。

すっかり忘れてしまっていたが、今でも「特許庁のデータベース」で僕の名前を発明者名に入れて検索すると、ヒットする特許公開情報が1件だけある。

専門的には、この案件は未審査請求によりみなし取り下げという扱いで終わっているのでいわゆる本当の「特許」ではない。

それでも、今にして思えること。

この1件はド素人の僕が、きっと外資ではなくて日本企業にいたからこそ達成できた、ささやかで個人的な金字塔。

外資の会社では、基本的にエクスパティーズのない人間にはこんな仕事をやらせないから、素人がこんなめちゃくちゃをやってしまえることはおそらくない。

だから、この特許出願は、僕の人生最初にしておらそく最後の特許出願だったと思うのである。



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2 件のコメント:

こまねこ さんのコメント...

技術屋さんって基本的に
突飛な考えでも
みんなでひっしに考えるんですね。
何度か特許の話を読みましたけど
理系のみなさん、かわいいw(最近こればっかりだけどw)

そういえば、おひさまのにおいのする
柔軟剤って売ってますよね。

たまーむ さんのコメント...

テキトー思いつきを言うのは簡単です。ほんとにつくるのはなかなか大変みたいです。

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