そうこうするうちに目的地に到着。車を止めて降りたSさんの後について、事務所に入る。
「ちょっとその辺にすわっててくれる。今、グッズをとってくるから。」
「はい、了解です。」
と答えて、僕はソファーにすわり、あたり見まわした。
ソファーの横には、いくつか皮革製品のサンプルらしきものがならべてある。
茶色の革の切れはしをつかんで眺めているところに、Sさんが戻ってきた。
「おい、入口に長靴を用意しておいたからな!! 白いやつ。」
「ありがとうございます。」
「あ、今つかんでいるサンプルが、いわゆる普通の『皮』だ。
そいつを切って縫えば、ブーツでもコードでもなんでもできる。わかるな。」
「はい。」
「せっかくだから、もうちょっと見せてやろう。えーっと・・・」
そういいながら、Sさんは戸棚からビニール袋に入ったものを取り出した。
「こっちのサンプルが染める前のなめした皮、業界で『ウェット・ブルー』って呼ばれるやつだ。」
ウェット・ブルーと呼ばれた切れはしは、濃い群青色がまざったような灰色をしていて、名前のように少し湿っていた。
「染める前?・・・皮製品の茶色っていのは染めてる色なんですか?」
「そうだよ。黒の注文があれば黒に染めるし、茶色なら茶色に染める。
注文が決まるまでは色が決まんないから、なるべくこのウェット・ブルーで置いておくわけだ。」
「ウェット・ブルーと、生の皮とはなにが違うんですか?」
「生の皮から、ゴミをとって毛を抜いて、皮革としての構造の間につまってる動物由来のコラーゲンを抜いて、その皮革構造をギュッとしっかりかためる・・・これを一言でいうと『なめす』っていうんだけど、金属であるクロムを使ってなめしおわった半製品を『ウェット・ブルー』という・・・」
「へぇー・・・」
「まあ、話は後だ。まず、ネクタイ外して、長靴はいてついてこい。」
ネクタイを外してジャンパーを羽織り、頭にはヘルメット。手に軍手。そして足には防水滑り止め仕様の長靴。
いよいよ、ウェット・ブルーになる前の、生の皮が眠る倉庫に出発。
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