2009/06/14

羽虫の飛び交う・・・(その3)

そうこうするうちに目的地に到着。車を止めて降りたSさんの後について、事務所に入る。

「ちょっとその辺にすわっててくれる。今、グッズをとってくるから。」

「はい、了解です。」

と答えて、僕はソファーにすわり、あたり見まわした。

ソファーの横には、いくつか皮革製品のサンプルらしきものがならべてある。

茶色の革の切れはしをつかんで眺めているところに、Sさんが戻ってきた。

「おい、入口に長靴を用意しておいたからな!! 白いやつ。」

「ありがとうございます。」

「あ、今つかんでいるサンプルが、いわゆる普通の『皮』だ。

 そいつを切って縫えば、ブーツでもコードでもなんでもできる。わかるな。」


「はい。」

「せっかくだから、もうちょっと見せてやろう。えーっと・・・」

そういいながら、Sさんは戸棚からビニール袋に入ったものを取り出した。

「こっちのサンプルが染める前のなめした皮、業界で『ウェット・ブルー』って呼ばれるやつだ。」

ウェット・ブルーと呼ばれた切れはしは、濃い群青色がまざったような灰色をしていて、名前のように少し湿っていた。

「染める前?・・・皮製品の茶色っていのは染めてる色なんですか?」

「そうだよ。黒の注文があれば黒に染めるし、茶色なら茶色に染める。

 注文が決まるまでは色が決まんないから、なるべくこのウェット・ブルーで置いておくわけだ。」


「ウェット・ブルーと、生の皮とはなにが違うんですか?」

「生の皮から、ゴミをとって毛を抜いて、皮革としての構造の間につまってる動物由来のコラーゲンを抜いて、その皮革構造をギュッとしっかりかためる・・・これを一言でいうと『なめす』っていうんだけど、金属であるクロムを使ってなめしおわった半製品を『ウェット・ブルー』という・・・」

「へぇー・・・」

「まあ、話は後だ。まず、ネクタイ外して、長靴はいてついてこい。」

ネクタイを外してジャンパーを羽織り、頭にはヘルメット。手に軍手。そして足には防水滑り止め仕様の長靴。

いよいよ、ウェット・ブルーになる前の、生の皮が眠る倉庫に出発。



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