夜、カッパドキアのホテルの中をメグミと一緒に歩いていると、オープン・スペースのテーブルで、ガイドのTがチャイを飲んでいた。ここでいうチャイとはもちろんトルコ・チャイである。
ちょうど夕食を終えた後だそうで、Tはチャイのグラスを片手で持ちながらこう聞いてくれた。
「トルコでは、食後にはチャイがなければなりません。
あなた方もいりますか?」
「うん。ちょうだい。」
すると、Tは今まで話をしていた男に一声かけ、なにやら合図をした。同席してTと雑談していた男はおそらくホテルの従業員なのだろう。
ほどなくして、男はメグミと僕のためにチャイを2杯もってあらわれた。
デミタスと同じくらいの直径の小ぶりな銀のソーサーの上に、透明なガラスのみでできた独特のくびれたグラスが載せられ、その中にチャイが8分目まで入っている。
「さあ、どうぞ」
Tはまるで、自分が用意したようにチャイを勧めた。
「えーと、砂糖はどうしようかな?」
ソーサー手前のミニスプーン上にある二つの角砂糖を見ながら迷っているとメグミが言った。
「最初から十分入ってて甘いよ。昨日のランチのチャイもそうだった。」
「うん、そうだね」
まず、そのまま飲んでみる。
熱い。それに味が濃くて、しかも、かなり甘い。
不思議なことに、日本にいるときにはこんな甘い紅茶を飲んだりしないのだが、ここトルコにいるとこの甘さがうれしく感じてしまう。
Tがこういった。
「ワタシは、いつも砂糖を2つ入れマース」
トルコ・チャイは、煮出し紅茶である。
日本の標準的な紅茶からすると濃すぎて苦いものをベースにしており、最初から砂糖を入れることを前提にしている。(日本にあるトルコ・レストランではしばしば砂糖無しのストレートでチャイが出てくるが、現地では最初からかなり甘い状態で出てくる。)
と同時に、甘さの調整は飲む人が個人の好みでやることになっている。
ルールのように書くとこんな感じだ。
手順1. 砂糖を1つ入れて、かき混ぜる
手順2. 味見をする
手順3. そんなに味は変わらないので、1に戻る
ガラスの容器を触ってもわかるが、チャイはたぶん日本の紅茶より温度が高くとても熱い。
温度がとても高いためか、上のような手順1-3を何回繰り返しても、あーら不思議、角砂糖はすべて溶けてしまう。
僕はTの勧めに従って、小さなチャイグラスに角砂糖2つを入れてかき回して飲んだ。
お茶としての飲む量がとても少ないのに、苦みも甘さもとても濃く、何かのエキスを吸っているような感じだ。
メグミは砂糖1つを入れたチャイを飲みながら言った。
「これを毎食後に飲んだら、絶対太るわね」
するとTがこう答えた。
「それをチャイ腹といいマース。
トルコでは
『チャイ腹のない男は、バルコニーのないマンションみたいなものだ』
という言葉もあります。」
なるほど、イスラム圏だから酒はないし、男たちは食後にチャイ、集まってはチャイ、でチャイ腹になるわけか。
そう考えながら、思い出して見れば、Tと一緒になってこの旅行をアレンジしてくれている運転手のF氏はかなり立派なチャイ腹だ。
うん、Tはまだ若いからはチャイ腹ではないが、F氏は立派な三段バルコニー付き。
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