次は陶器屋にやってきた。
今度も日本語が大変お上手な陶芸家店主殿が迎えてくれた。
例によって、工房見学からスタートする。
ここは陶芸工房なので、したがって、ろくろがある。
「ドーゾ、ロクロをやってみてくだサーイ。」
言われるまま、メグミがロクロの前に座る。
日本にもよくあるが、素人にやらせてみて茶碗がうまくできずにへなちょこができあがる、といういつものパフォーマンスに違いない。
とはいうものの、このロクロ、日本のものとは違う。
何が違うのかって、ロクロを回転させる動力がなにもないので、足元までつながった回転体を作業者が自分で蹴っ飛ばして、回転させる必要がある。
足で蹴っ飛ばす円盤の中心に、手元の高さまで円柱がたっていて、円柱の先端に粘土をのっけてロクロ作業をするようになっているのである。
メグミはご指導に従って、水で粘土を濡らして表面をやわらかくしながらロクロに手を加え、予定通り変てこなウツワモドキができあがった。
「で、何を作るつもりだったの?」
「もちろん、茶碗よ!!」
こういう意地悪なつっこみにまったく動じないのがメグミの特徴だ。
さてロクロ体験終了し、予定通りいかに作業が難しいのかを体感した次に向かうのが、「商品展示室」だ。
そこには、壁一面に絵皿がかけてあり、やはりタイルで有名なトルコブルーが映えて輝いていた。
「おおー、すごーい!!」
店主殿は僕らが感心してかけてある種々の絵柄の皿に見入っているのを見ながら、おきまりの説明を始めた。
「ここの皿の絵柄は、みんなポイント・ポイント・ペインティング デース」
確かに、僕が見ていたブルーの花の描かれた絵皿を近寄ってよく見てみると、花びら、茎などは線ではなく、すべて青い点が無数に点々と集まって、形成されていた。筆で線を引いているのではないのである。
つまりは青い点による点描画、ということ。
「点でできてるんですね」
「そうデース。ダカラ、描くのにトテモ、トテモ、時間がかかりマース」
なるほど、予定の説明である。値段交渉になったときに、ノー、ノーこれはポイント・ポイント・ペインティングだから、そんな価格では無理だ、などという伏線を張っているわけだ。
店主殿、今度は大きなボールを取り出して、左の手の平の上にボールを乗せて見せた。
「コレが良いお皿の音デース」
そういって、彼は右手の人差指一本で、お寺のおりんを鳴らすようにボースをたたいた。
ポワーン!!
すると、ボールは澄んだ音で共鳴した。
「いい音するねー」
店主殿は、それにうなずくと今度は、小さなコップを取り出してきた。
「コレは落としても壊れまセーン」
そう言って肩の高さから手を離し、そのカップを床に落として見せた。
ガタ!?
確かに店主の言うようにカップは割れていない。
でも、僕は彼がカップを注意深くまっすぐ落としたのを見ていた。
僕は昔、バイトでさんざんレストランのホールや厨房で働き、コップをいくつも割ったことがあるので知っているが、コップはたとえガラス製であってもまっすぐ落ちたときは、ほとんど割れないものなのである。割れるのは大抵、斜めに落としたときと決まっている。
よっほど、斜めに落として見るように言ってみようかと思ったが、こういうおじさんのプライドを傷つけると後で厄介そうなのでやめておいた。
一通りデモンストレーションが終わったところで、例のセリフが出た。
「さあ、ドレが好きデスカ?」
メグミは多少気に入ったものがあったらしく、ブルーのきれいな一枚の皿を指した。
「コレハ、一枚、250ドル デース。
デモ、新婚旅行のお二人には、トクベツ・プライス 148ドル デース」
そういって、店主は電卓で148と入力してメグミに渡してきた。
電卓による価格交渉のスタートだ。
メグミはちょっと考えて、電卓に希望金額を入力して店主に返した。
店主のおじさん、目を剥いて、そして言った。
「オー、ノー!!」
僕らは、それを尻目に早々に退散。
店から出てから、僕は聞いてみた。
「ねえ、さっきはいくらって、出したの?」
するとメグミ、
「あ、40ドル。
おじさん、卒倒しそうだったねぇー。」
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