僕は意を決し、Sさんを追って長靴を正体不明の茶色い水たまりに踏み入れた。
パチャ、パチャ・・・
その間も頭上では、無数の羽虫たちが終わりのない旋回を続けている。
ブブゥゥーン
Sさんが手をかけて上ったあたりまで来ると、皮の山の上に立っているSさんが指をさしていった。
「はい。どうせ聞くだろうから、先にココ見て。」
どうやら牛の皮は、生きている間の姿とは反対に毛が生えている側を内側にして折りたたんで重ねるルールのようだった。
積み重なって見えている皮は肉の肌みたいで、本当の生傷のように肉の表面はしっとり濡れている。
そして、しっとりとしたその肉の肌には、一面にポツポツとあまたの黒い点々がびっしり付いている。
だいたい2センチごとについているから、しっとり生傷にまんべんなくゴマ塩を振ったような感じだ。
もっと近づいて見ると黒点は5ミリ程度の細長い棒状に見えた。
「この黒いブツブツはみーんな、虫の卵。
さっき、常温で外気においておくって説明したよね。
アメリカから船に積むまでに港においておく間に、こんなふうになるんだ。」
「・・・・・」
「じゃあ、上にあがってきて」
一応軍手をしているものの、このしっとりゴマ塩に手を置くのは、ちょっと、いやかなり怖い。。。
といって、そんなことも言えないし。。。。
僕はなるべく平静を装いながら、肉ゴマ塩が低くなっているところを探して、腹筋を使って手をつかずによじ登った。
「えーっと、こっちの山が、なんていうかなぁ・・・冬に取れたやつ。
牛の皮っていうのはやっぱり、夏と冬で違っていて、冬の方が栄養を蓄えていて質がいい。
その代わりフンがついてるけどな。」
「フンがついてる?」
「そう。牛っていうのはさ。冬は寒いから自分のフンの上に座って寝るんだ。」
「へーえ」
「それから・・・あっ、こっちは、仔牛の皮だ。
ちょっとチェックして見てみるか・・・
ときどきこうして見ておかないとね・・・」
つづく
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