2009/06/17

羽虫の飛び交う・・・(その6)

僕は高さ約2メートル、枚数にして約80枚の牛の生皮の上にたって、Sさんが仔牛の皮をチェックするのを横で見ていた。

Sさんが、重なっている一番上の仔牛の皮を、無造作に素手でつかんでさっとめくったその時だった。

 ざわざわざわざわ・・・・

 ざわざわざわ・・・・

急に光が入ったその瞬間に、皮と皮の間に巣くっていた無数のウジ虫がうごめいたのだ。

が、Sさんの目には虫などまったく目に入らないかのようだった。

「な、裏側には毛が生えている。」

なるほど、めくって裏返った皮を見ると、ホルスタインのような白黒模様の毛がはえている。

「仔牛の方が色が薄いけど、皮としては肌理が細かい。

 比較のためにこっちも見て。」


といって、隣の山の皮をめくった。

 ざわざわざわざわ・・・・

 ざわざわざわ・・・・

「ね。やっぱり仔牛の方がいいでしょ。この下はどうなってるかな。」

 ざわざわざわざわ・・・・

「うん、いいね」

 ざわざわざわざわ・・・・

「うん」

 ざわざわざわざわ・・・・

「いいね」

 ざわざわざわざわ・・・・

「このあたりはまだ品質に問題ないね。

 常温でいいといってもさすがに数カ月するとね、ダメになってくるんだよ。」


Sさんは自分の扱う商品の品質を確認し、僕に「いいでしょ」と説明するあたりは誇らしげにさえ見えた。

羽虫が飛び交おうが、イモムシが動こうが、彼が守るべき品質には関係ないのだ。

僕は最後に事務所に戻ってSさんに言われた言葉を忘れない。

「世の中のブランド・バック好きの女、全員に見せてやりたいね。

 バックだろうか、ブーツだろうが、皮製品はすべてコレから始まる。 

 例外はない。」



おしまい

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